どれほど有効? 債権回収の手段のひとつ「支払督促」とは
ビジネス上での取引では売掛金や債権を回収することは会社の機能維持や事業拡大の大前提であり、これができて初めて目的が達成できると言えるものです。
しかしこれには取引の相手の存在も関わってくるもので、ときにはすんなり回収できないこともあります。
そんなときに回収の方法を知っていれば、その手段に乗り出すこともできるでしょう。
その手段のひとつである「支払督促」についてご紹介します。
「支払督促」とは
債権者が支払時期のきた売買代金などの支払いを求め、裁判所から相手方に書類を送り支払いの催促をする制度です。
手順としては、事件を管轄する簡易裁判所に支払督促の申し立てをし、簡易裁判所の書記官が申し立ての書類審査をするだけで発せられます。
口頭弁論や証拠調べなどがなく簡易な手続です。
裁判所に納付する収入印紙は通常の裁判の半分です。
書類を相手方送り異議が申し立てられることがなければ確定判決としての効力があり強制執行が可能になります。
これだけみると、「便利な制度」という印象を受けるかもしれません。
また、確かに、支払督促とは、簡単にいうと、裁判所が発送する督促状のようなものですので、債権者が直接相手方に督促をするよりも効果は高いといえます。
しかし、果たしてどうでしょうか。。。
支払督促は、もし相手方が異議を申し立てると通常の訴訟手続きへ移行することになります。
しかも、相手方には異議を申し立てる機会が2度も与えられています。
以下、具体的手続きについて見てみましょう。
申し立ての手順
■簡易裁判所に申し立て
支払を求める相手方の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官に申し立てを行います。
書記官は申し立て審査ののち、相手方に支払督促を送付します。
相手方は異議がある場合は受領後2週間以内に異議の申し立てをしなければなりません。
■仮執行宣言の申し立て
2週間以内に申し立てがないと支払督促を送った側の債権者はその日から30日以内に、簡易裁判所書記官に仮執行宣言の申し立てができます。
ここでも申し立ての内容を審査して不備がなければ相手方に対して「仮執行宣言付き支払督促」が送付されます。
受領後2週間以内に相手方の異議申し立てがなければ、「仮執行宣言付き支払督促」は確定判決と同じ効力を持つようになるのです。
この時点で債権者は強制執行の権利を有します。
なお相手方に異議申し立てがあった場合は通常訴訟に移ります。
裁判に移行することの弊害
相手方から異議を申し立てられると裁判に移りますが、労力や費用を費やすものです。
裁判となることで足りない分の収入印紙を払い、支払いを認めさせる証拠を提出し裁判に出席、判決が出るまでを見届けなくてはなりません。
支払督促後の裁判は必ず相手方の住所近くの裁判所で開かれるということも考慮すべき点です。
遠方での裁判となると費用や労力もかかります。
なお、金銭の支払いを求める民事訴訟を提起する場合、義務履行地である自分の住所地を管轄する裁判所で審理することが可能です。
相手方が遠方にいる場合、はじめから民事訴訟を提起した方が良い場合があります。
効果はあるの?
仮執行宣言付支払督促が確定すると、「確定判決と同一の効力を有する」とされます(民事訴訟法396条)。
しかし、厳密に言うと、確定判決とまったく「同じ」というわけではありません。
仮執行宣言付支払督促が確定すると、これに基づいて強制執行をすることが可能です。
また、支払督促申立時に、消滅時効中断(延長)という効力が発生し、確定により新たに進行する時効期間は10年となります。
この点では判決と変わりはありません。
しかし、支払督促により得た結果は、後日、相手方から別の訴訟等を申立てられて覆される可能性があります。
これを法律用語では、「既判力」がない(事後的に別の裁判(訴訟等)で覆すことができなくなる効力がない)と言います。
民事訴訟の判決は、裁判官が、当事者双方の言い分をしっかりと聞き、慎重に判断した上で下します。
このようにして裁判官が慎重に判断して下した判決が確定した場合、不服があるからと言って、その内容をひっくり返すことはできません。
これに対し、支払督促は、相手方の言い分を聞かずに、裁判所の書記官が、債権者の言い分のみを聞いて発せられます。
すなわち、裁判所の書記官は、債権者の権利があるのかないのかその内容を判断して支払督促を発するわけではないのです。
このような、簡易な手続きであり、権利があるのかないのか不確実であるため、支払督促には既判力はないとされているのです。
支払督促は手続きとしては難しいものではありませんし、それなりの効果も期待できます。しかし、相手の出方によっては裁判に発展します。
また、せっかく仮執行宣言付支払督促が確定しても、その内容について、後日、ひkっくり返されるおそれもあります。
異議を生じさせない確固とした理由があるなど相手の反応を想定して支払督促という手段に出ることが適切でしょう。